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質疑応答から  −「社会主義」をどうとらえるか−

 

(富澤) どうも関口先生、長い時間ありがとうございました。

 先生の方から質問があるようでしたらいくつか受け付けたいということもございますので、特に学生諸君、非常に刺激的で挑戦的な講義であったわけですけれども、是非学生諸君の方からこれだけは聞いておきたいという質問等がございましたら出していただきたいと思います。何かございませんか。

 福島大学としては大塚文庫をお引き受けするということが非常に厳しい、ある意味では並々ならぬ挑戦を意味しているなということを実感しております。とりわけ現在、日本の国立大学は大学再編の大波の唯中にいるわけでございます。関口先生がおっしゃったこと、いちいちごもっとも、そういう形でこの大塚文庫がパン種になってくれたらなと思うわけですけれども、果たして福島大学が今後そうした期待に添うような形で大学再編、全学再編を成し遂げられるかどうか、これはかなりしんどい荷やっかいなことだなとお話を伺いながらそんな感想を持ちました。

 ちょっと私個人の問題関心からひとつ質問させていただきたいのですけれども、大塚先生が例えば社会主義についてはどんな評価をされていたのかということを、もしお答え願えるなら教えていただきたい。とりわけ形式合理性と目的合理性が貫徹する現代の社会状況を考えるときに、果たして社会主義の諸理論というものが思想として役立ち得るのかどうか、少し教えていただけませんでしょうか。

旧社会主義と市

(関口) 大塚先生は、そんなに社会主義のことについて語られたこ
とはないし、あまり書かれていることでもないと思います。ただ二つ
のことを申し上げたいのですが、一つは、マックス・ヴェーバー、こ

民的変革の課題

こに樋口先生がおられますが、ロシアで革命が起こるとヴェーバーはロシア語を学んで新聞を取り寄せ資料を取り寄せて一生懸命勉強した。そして、ヴェーバーは、自分は様々な党派の中ではレーニンのゼクテに現在関心をもっている。ボルシェヴィーキが現在のところ、いちばん問題の核心を提示していると思う。ヴェーバーはこう述べて、しかし、と続けています。しかし、レーニン・ゼクテの決定的な弱点は、労農革命、あるいは労農兵のソヴェート革命ということで、農民と妥協し農民の力で社会主義国家を建設しようとしている。しかし、ロシアの農民はどのような歴史的・社会的性格をもっているのか、ということで、ヴェーバーはこのエス・エル農民が共同体的な、しかも多分にヨーロッパの封建制とはまた違った血縁的・アジア的な性格を持っていることを見逃しませんでした。 林道義さんや最近では肥前栄一さんが指摘されているように、ロシア農民の共同体は古い実質的合理性、実質的平等の組織です。だから、反資本主義的な力のエネルギーの源泉としては大いに利用価値があるんだけれども、この農民といっしょに、農民に依存して革命をやっていくと、そこで出来上がるのはアジア的な苦役と専制の社会ではないか。自立した個人を前提として、その新しい社会への形成の道として提起されているはずの社会主義変革の理念が、とんでもない古いエジプト的苦役の復権とでもいう形になるのではないか、ということをヴェーバーは危惧している。 そういうのがヴェーバーのロシア革命論だということを、大塚先生も共感をこめて話されたことがあります。

 今日お話したこととの関連では大塚先生は「新しい共同体」と言われた場合に、それが伝統主義的な古い共同体を根っこにした場合にはどのような恐ろしい結果をもたらすのかと、そこの区別をきちんとした形で問題を立てなければならないということを強調されていたわけで、自立した市民の自発的なアソシエーション型の変革を、先生は未来社会への道として展望されていたのではないでしょうか

アソシエーション

それから、もう一つは消費者社会主義。今までの社会主義理論は、
 労働者が団結して労働者・生産者の世界を作っていくということ
で、生産の側に重きがある。 しかし、消費者の立場、消費者として

と消費者社会主義

の労働者の立場、勤労民衆の購買力の観点は、未来社会でどのような位置づけをもつべきものなのか。 そこで「消費者社会主義」という構想、これはヴェーバーが1918年にオーストリアの将校を前にした講演で提起した問題ですが、大塚先生はこのヴェーバーの考えにも大変関心を示され話をされたことが記憶に残っています。 生産は本来消費のためのものであるはずなのに、資本主義社会では、結局は消費のためのものであるはずのこの生産が結局は生産のための生産というようなことになって、消費者がどこかに行ってしまっている。果たして未来社会はこの問題にどう取り組もうとしているのか。 消費者不在で資源配分の計画的な設計が可能なのか。 成熟した市民社会を土台とした社会主義の建設というとき、「消費者の利益」はどうあるべきなのか。アソシエーション論の立場は、消費者運動と未来社会という問題も視野に入れて構想されるべきなのではないでしょうか。
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