福島大学附属図書館報 『書燈』 No.29(2002.10.1)

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学内教官著作寄贈図書の紹介 

『 人間理解の基礎』 晃洋書房 2002.4
 内田 詔夫著 (教育学部教授)

 この本は、中学校で行った授業をもとに、中学生が学んだり日常的に接する程度の知識や情報と簡単な思考のみをもとにして、「人間と世界」、「知識」、「行為」という3つの視点から、人間の独自性、科学は確実か、自由と責任、可能性と限界、法則とルールなど、哲学の基本問題を徹底的にやさしく、またわかりやすく論じ、読者自身の考察のきっかけないし手がかりを提供しようとした試みです。哲学というと、普通の現代人の生活とは無縁の特殊な問題を、特定の信念や理論に基づいて、特別な問題意識や悩みを持つ人のために、また難解な理論やことばを駆使して論じるもの、というようなイメージを持ち、生活や職業上の必要性や有効性があるとは思いもしない人が多いように思われますが、この本は、日常の学習や生活に即して人間理解を深めることをねらいとしている点で、いわば「普通の人間の、普通の人間による、普通の人間のための哲学」を追求した試みでもあります。

(請求記号104/U14n)

 

『 大型店とドイツのまちづくり-中心市街地活性化と広域調整-』
 
学芸出版社 2001.12
 阿部 成治著(教育学部教授)

  「百聞は一見に如かず」とは目で見ることの重要さを述べたものだが、毎日のように多数のジャンボ機が飛び、簡単に海外を訪問できる現在でも、異国の理解は容易でない。ドイツの中心市街地が歩行者空間として整備され、人々であふれている光景を見ると、「このように整備をすれば、日本でも市街地を活性化できる」と感じるだろう。その感覚が誤りだとは言えないが、状況のごく一部に過ぎないことも事実である。  この本は、都心を衰退からまもるために、ドイツで何が行われているのかを追跡したもので、個人の動きにまで光をあてた点に特徴がある。何回ドイツを訪問しても、郊外店舗の進出をめぐって市議会で行われている議論や、裁判紛争は見えてこない。そこで、新聞社がホームページに掲載しているローカルニュース等を調査し、現地を訪問して書いたのがこの本である。大切なのは、百聞と一見を組み合わせることではないだろうか。

(請求記号518.8/A12o)

 

『 赤い服の少女』 近代文芸社 2002.6
 鉄 凝著 池沢 実芳訳 (経済学部教授)

 本書は、鉄凝の最初の邦訳作品集『第八曜日を下さい』(95年8月、近代文芸社)に続く2冊目の邦訳作品集である。書名にした中篇「赤い服の少女」(映画「紅い服の少女」の原作。福大にもこの映画のビデオがある)を含む6篇の中短篇小説を収録。  ある人から、懐かしい中国の80年代初の息吹が感じられる作品集という感想を貰った。『大浴女』や「午後懸崖」など最近の彼女の円熟した作品からみれば、技巧的に相当に幼稚な作品が収められていると見る向きもあろうが、これらの初期作品にも彼女の誠実で真摯な筆づかいが認められる点で、訳者は本書にも捨て難い魅力を感じている。著者は文革体験者である。80年代初、中国社会には文革直後の喧騒と安堵と希望が渦巻いていた。80年代初の息吹とは、再生を目指す悲惨な文革体験者たちのそのような渦巻く空気を指すのではないかと思う。読者は、本書の作品から当時の空気を感じ取ってほしい。

(請求記号923/Te86a)

『 律令国家とふくしま』 歴史春秋社 2001.9
 工藤 雅樹著 (行政社会学部教授)

 これまで白河関以北は古代にあっては蝦夷の世界であると考えられていた。しかし少なくとも大化の改新直前のころ以後の福島県中通地方、浜通り地方(厳密に言えば阿武隈川河口以南)は、蝦夷の世界ではなかった。また会津地方は必ずしも中通地方、浜通り地方と同じ性格の地域ではなく、むしろ仙台平野と共通する側面がある。ひとくちに東北地方の古代史や古代文化といっても決して画一的なものではない。古代史や考古学の面からいえば、福島県地方は東北地方的な要素とともに東日本諸地域と共通する要素も少なくないのである。  本書は、近年の考古学の調査成果をふまえながら、日本古代史一般や蝦夷の世界の古代史との関係にも配慮しながら、全面的に蝦夷の世界とはいえないものの、蝦夷の世界と無縁でもない、東北地方南部の古代史について、簡潔にまとめてみたものである。

 (請求記号090.8/R84r/51)

『 東北ことば』 読売新聞地方部著
 中央公論新社 2002.4 (中公新書ラクレ 44)
 半沢 康 (教育学部助教授)

 近代日本の成立以降、「標準語(戦後は共通語)」という特権的な名称が「東京の方言」に与えられた。「東京の方言」を理解し、話すことが出来ないと進学も就職も出来ず、裁判だって受けられない。日本各地の人々はやむなく自分達の言葉を捨て「東京方言」を習得した。関西の人は堂々と方言を使っているじゃないか、という反論もあろうが関西弁だって相当に「東京方言化」されているのである。  この構図、実は今世界中で進行している「英語」の「世界共通語」化とまったく同じものだ。人々が躍起になって英語を勉強している陰で、各地の少数民族の言語が圧迫され、消滅に追いやられている。東南アジアでは若者が英語しか話せないために、お年寄りの話す言葉が理解できないという状況も生まれているという。まるで現在の東北地方のようではないか。  「方言」の問題は、常に優勢言語話者による他言語話者の支配と抑圧、言語差から生まれる社会的不平等の増大といった政治的な問題を内に孕んでいる。「素朴で温かみのある言葉」「心やすらぐ故郷の言葉」という安易な方言イメージ(本書のスタンスも結構そうだったりする。新聞連載の限界。)の背後に目を向けていかないと、「日本語」だってそのうち衰退の道をたどることになるかもしれない。

(請求記号818.2/Y81t)

『 地域産業の挑戦』 ふくしま地域づくりの会編
 八朔社 2002.6 (10周年シリーズ①)
 下平尾 勲 (経済学部教授)

 地域は今、次のような要因によって急激に変化しています。1つは長びく不況の深刻化、2つはグロバリーゼーションの推進、3つは規制改革・構造改革です。老舗の企業の倒産、誘致企業の撤退、市街地商業の空洞化、地域農業の解体、輸入品の急増による地場産業の衰退だけではありません。産業、金融、教育、医療、福祉にいたるまで市場原理の名のもとに弱者、敗者が切り捨てられつつあります。  「ふくしま地域づくりの会」は、各階層の人自主的な活動組織ですが、10周年記念事業の一つとして本書をとりまとめました。①中小企業、地場産業、②農山村・農業、③商業・観光業、④ベンチャー・IT、⑤産業基盤・政策の5つの分野に分け、19名の執筆者による共同作業です。本学の先生、院生等多く加わっています。意欲的な企業,地域産業、新たに登場しているシステムなど「挑戦」という面からとりあげています。

(請求記号096/F84c)

 

その他の学内教官著作寄贈図書リスト

書  名 出版社 出版年 著  者 請求記号 所  在
読んで学べるADHDのペアレントトレーニング 明石書店 2002.3 アッシア・ウィッタム著
中田洋二郎訳
378/C99y 学内刊行物コーナー
材料の科学と工学(全4巻) 培風館 2002.6 W.D.キャリスター著
入戸野修監修
501.4/C13z/
1〜4
学内刊行物コーナー
言語文学教育
佐藤宣男教授退官記念論文集
佐藤宣男教授退官記念論文集刊行会 2002.2 佐藤宣男教授退官記念論文集刊行会編 375.8/Sa85g 学内刊行物コーナー
名古屋−伊勢間グロットグラム集 徳島大学総合科学部 2001.5 岸江信介代表
半沢康等編著
818.55/Ki56n 学内刊行物コーナー

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