福島大学附属図書館報 『書燈』 No.30(2003.4.1)

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購入資料案内
大型コレクション「健康と社会福祉のための教育」
佐藤  理

 社会全体として省力化が進み、身体活動の質と量が著しく低下した。このような状況の下で、子どもの体力低下、生活習慣病の増加、ストレスによる問題の増加など、心身に関わる様々な問題が噴出している。環境問題も含め、人間としての本来的な生存自体が危ぶまれるような兆候さえ指摘されている今日である。これらの問題についてより本質的な解決の方向を探るには、これまでの健康科学、体育及びスポーツ科学、福祉、医学などの成果を、その源流までさかのぼって総括し、より本質的な解を求めていく必要がある。

  このたび購入の運びとなった大型コレクションEducation for Health & Public Welfare; from the "Survival of the Fittest" to "Fitting the Many to Survive"(健康と社会福祉のための教育−「適者生存」から「万民生存」へ)は、16〜20世紀の西欧における医療とスポーツ・身体活動に関する古典的名著の集大成である。西欧における健康・医療とスポーツ・身体活動との結びつきの源流はギリシャのヒポクラテスまで遡る。今日のような際だった治療手段が無かった時代にヒポクラテスは、外界の様々な撹乱要因による健康破綻を防いだり回復させる、本来的に人間に備わる力を「自然治癒力」と喝破したのである。その後、人間らしい生存の基盤を身体におき、人間的発育発達とより良い生存のための体育・スポーツをはじめとする様々な身体技法が追求されていく。

  コレクションは、フラーの「医療体操」Medi cina Gymnastica第4版1711年刊、メルクリアーレの「体操書」De Arte Gymnastica第3版1587年刊、ロスによる「運動による慢性病予防と治療」The Prevention and Cure of Many Chronic Diseases by Movements初版1851年刊をはじめ、その他ドイツの体育家グーツ・ムーツ、プロイセンの体操教育家ヤーン、スエーデンの近代体育の先駆者リング、ドイツの体操家シュピースなどの代表的主要図書を含む全81点から成っている。

  この大型コレクションが利用に供されることによって、身体を核にしたよりよい「万民の生存」への理論構築への道が大きく開かれていくであろう。                                       (教育学部教授)

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