福島大学附属図書館報 『書燈』 No.31(2003.10.1)

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学内教官著作寄贈図書の紹介


『非行臨床の焦点』
 金剛出版 2003.04
生島 浩 著 (教育学部教授)

 中学生等年少少年による衝撃的な犯罪が頻発している。 2001年から施行されている新しい少年法のもとでの非行臨床現場の現状と実践課題に焦点を当て、非行臨床の専門性確立のための視点を提供する大学でのテキストとして本書を執筆した。非行少年の社会復帰を担う保護観察官としての経験を踏まえて、具体的な事例をもとに少年たちの立ち直りへのより有効な道筋を探求している。

 問題を抱えた少年のみならず、その家族へのサポート、少年が矯正施設から出てきてから生活する地域社会への援助、さらには犯罪被害者への社会支援も必要不可欠であり、それらへの心理社会的援助の実際と問題点を詳述した。学生・院生に加えて現職教員などに非行臨床の最新の知見を示すとともに、この世界へ有力な新人を獲得したいという欲張った思いが筆者にある。非行に限らず問題を抱えた子どもたちとその家族の援助に関心を持つ多くの人に是非一読してもらいたい。(請求番号368.7/Sh96h)

 

 

『社会調査論研究室 年報』 同研究室編集・発行 2003.03
担当教官:今西一男(行政社会学部助教授)

 2000年4月の着任以来、私が担当する演習(社会調査論)=社会調査論研究室では、 毎年度の研究・調査の成果を『年報』としてまとめている。社会調査は結果の公表までを行う一連の過程であるということ、そして相当の時間を費やして活動してきた学生たちの思いをかたちに残したいということの2点から発行を続けている。

 去る4月で№.3を発行したが、この間の一貫した研究課題は「開発による地域空間の変容とコミュニティ」である。この課題を基軸に行う都市開発の現場での調査結果をまとめた「フィールドノート」、調査票調査等も用いて開発問題を考察する「特集」、関連する文献を読んでの「書評」など、学生たちによる多様な考察を掲載している。また、2年間をかけて「まちづくり」との接点で書き上げる卒業研究の要旨も所収している。

 今回、『書燈』に紙幅を与えられたことは研究室にとって大きな励みになる。さらにこの『年報』をご覧いただき、研究室の研究・調査そして教育にご意見いただければ幸甚である。

 

 

『人事労務管理の歴史分析』 ミネルヴァ書房 2003.03
熊沢 透(経済学部助教授)

 今日の経済社会に対して検討のメスを入れようと試みたとき、私たちはどのような方法を採りうるでしょうか? 「労働問題・労使関係」を守備範囲とする私たちは「戦後日の人事労務管理の展開過程を、諸制度の相互の連関に留意しながら、主に1950年代から60年代に焦点を当てて総合的に解明すること(序章)」を通じて、現在の労働関係を歴史的に相対化することを目指しました。

 この本に結実した研究会において共有されている問題関心は、システムに溶かし込まれた各主体の「理念」・「思想」・「公正観」といったものを析出し、その展開を「制度」生成のダイナミズムのなかに然るべく位置づけることで、戦後労働史・労務管理史を再構成しよう、ということです。テーマに即していいかえれば、「日本的雇用慣行」と呼ばれるものを、単に目的合理的な手段の体系としてではなく、各主体合作の歴史的構成体として捉え直してみようというわけです。

 事例分析に力点がおかれているため、迂遠で些末な叙述が続くように思われるかもしれません。しかし、これはまだまだ 「前提的作業」です。多様な分野の学究諸氏に対していささかでも有益な示唆と含意あれかしと思います。

(請求番号336.4/Sa16j)

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