『書燈』 No.24(2000.4.1)

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思い出の一冊
 
植村直己『北極点グリーンランド単独行』文芸春秋.1978
教育学部4年 角田 直之  

  この本に出会ったのは中学生のときだった。時間も忘れて、授業中も夢中になって読みつづけたことを覚えている。当時本が好きでなかった私にとって初めての経験だった。

 大学4年生になり就職試験が一段落した昨年の夏この本を再び読んだ。同じように、夢中になって読みいった。今回、夢中になった理由は植村直己氏に共感したからだと思う。普通の冒険家ならば、自分の冒険を美談のように書いてしまうかもしれない。しかし植村氏は冒険中の気持ちを正直に表現している。橇を引く犬が思い通りに動かない不満、自分に対するいらだち、冒険をやめようとする気持ちとの葛藤、などである。植村氏の人間らしい弱さ、苦しみをひしひしと感じることができる。そんなとき、多くの友人が助け、励まし、植村氏は冒険を完遂することができた。これは私の大学生活の姿と当てはめて感じてしまう。私は、進路や勉強など多くのことで悩んだとき、友達・先輩など多くの人に助けてもらったと感じる。植村氏は何の迷いもなく、自分が決めた目標に突っ走る、私の手の届かないような立派な冒険家と思っていた。しかし、植村氏も私と同じ人間であり、悩み、苦しみながら生きているのだと思い私も何か勇気づけられたような気がした。読んだときは、自分の進路に希望が持てず、落ち込んでいたときだったのでなおさら勇気づけられた。

 これは大学生の今だから受ける感動であり、中学生のときなぜに夢中になって読んだのか今になってはわからない。ただ、当時強く心に残っていることは、この本を読んでいるときに、植村氏が死んでしまった話を先生から聞かされたことだ。ショックだったと同時に、雪山での遭難ならば、どこかで生きているのではないかと本当に思った。中学生の私にとって「死」というものがとても大きなものだったからこそ、この本が強く印象に残ったのかもしれない。

 中学生と大学生で同じ本を読んでも受ける感動はまったく違うと思う。しかし、どちらでも私に深い感銘を与えてくれ、かつ、何度も本を読む楽しさを味わわせてくれたこの本は私にとっての「思い出の一冊」です。

gakujo@lib.fukushima-u.ac.jp

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