福島大学附属図書館報 『書燈』 No.29(2002.10.1)

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学内教官著作寄贈図書の紹介 

『近代政治理論の古典と現代』 北樹出版 2002.4
 伊藤 宏之 著 (教育学部教授)

 グローバリゼーションの波及の中で、深刻化する南北問題の解決策への問いが地球のあちこちから発せられている。本書はこの問いをふまえて「人類史上の近代」を主導してきた欧米の政治理論の史的検討を試みている。歴史的方法をとるのは、過去が現代をとらえているからである。

  個人の自己実現のために、人間は自発的結社(教会・政党・労働組合など)に参加し、自前では不足する条件整備を国家に求める。この世界に開かれた市民社会を基軸とし、国家を一つの手段とみなす政治理論は、ロックとスミスにおいて古典的構成を整える。しかし、世界市場の確立は、この古典的構成の再編問題を生む。ミルやパーソンズに対抗して、マルクスやラスキは世界秩序を視野に入れて剰余価値と国家の民主的規制による「個人の解放」を説く。これが、近代の初発にホッブズの提起した「秩序の問題」への解答となりえているかどうかの検証が21世紀の政治理論の課題である。

 (請求番号311.2/I89k)

『西脇順三郎のモダニズム −「ギリシア的抒情詩」全篇を読むー』
 
双文社出版 2002.9
 澤 正宏 著(教育学部教授)

  「詩とはなにか」を問うことは文学の最大の課題であるが、時代・社会の変化とともに、その探求を言語で表現されたテクストでなすことは困難になって来ている。端的に言えば、現代詩を学問として研究することは極めて困難なのである。加えて、日本では小説に比べると詩の研究はそう活発とはいえない、という状況がある。

  そこで本書では、日本の現代詩の出発期の、しかも現代詩のパイオニアであった詩人とその詩篇に焦点をあてて、魅力ある表現ではあるが難解な12篇の詩についての総合的な「読み」を試みた。総合的という意味は、テクスト論としての読みも展開するが、詩人に寄り添った実証的なレベルでの読みも展開し、これまで殆ど本格的な研究がなされてこなかった各詩篇の読みを、比較文化、比較文学、表現スタイル、表現方法などの面からトータルに考察したということである。そのために、文学主題の共通性に配慮したり、写真を多用した。

           (請求番号911.52/Sa93n)

『日本を問いなおす』 岩波書店 2002.10
 (いくつもの日本Ⅰ)
 工藤 雅樹 共著 (行政社会学部教授)

 本書のタイトルには、日本の文化や歴史を単一のものとする傾向があったことに対する反省の意味がこめられている。南北3500キロに及ぶ日本列島には、さまざまな気候風土の地域がならびたっており、それぞれに特色のある文化と歴史を育んできた。それにもかかわらずこれまでの日本文化論・日本人論、そして日本歴史そのものも、そのような違いを無視し、もっぱら飛鳥・奈良・京都を中心とした地域の文化こそが日本文化であり、この地域の歴史が日本歴史の基準とされてきた。日本は単一の民族からなるという議論の根もこのような考えに起因する。

  本書ではこのような立場を踏まえて、筆者も含めての10名が考古学・民族学・歴史学などそれぞれの面から「いくつもの日本」を論じている。

  ちなみに筆者は「蝦夷とアイヌ」のテーマで、民族としてのアイヌの成立を考え、古代の蝦夷とはアイヌ民族と日本民族がそれぞれ歴史的に成立する過程のなかで理解すべきことを述べている。

(請求番号210.1/A32n)

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