『書燈』 No.20(1998.4.1)

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  思い出の一冊
     私を通商専門に引き込んだこの一冊
  (経済学部 山浦廣海)


 資源小国日本の立国は、通商にあり!通商立国日本の生きるよすがは通商自由化にある。明治開国以来この自明の理は、ついぞ日本の国是になったためしがない。それが証拠に、明治の開国以来、つい2年前まで日本の大学に通商の専門教科と専任教授が置かれたことがない。何でも欧米の物真似を演じてきた日本の恐らく唯一のこの手抜かりも、通商自由化の国家的国民的観念が欠如してのことであろう。

 自由とは、自分で物事を決めること、規制とは、他人に物事を決めてもらうこと、となると、日本は、断然後者の独壇場だ。国家も国民もである。

 しかし、この書には、サービス分野においては、規制が比較優位を決定するとある。この書とは、私が15年ほど前に出遇ったロナルド・シェルプ著=佐藤浩訳『サービス取引の自由化 ポスト工業化時代の課題』のことである。サービス分野の規制に比較優位の論理を適用させる国際的な法的枠組を構築すること、これが今後世界的に取り組まれるべき工業全盛後のサービス貿易自由化の課題らしい。日本がこれを最も苦手とすることは規制至上主義日本の宿命だ。

 本書によると、当時のEECやOECDでは、サービス貿易自由化の検討や実施が進められているようである。シェルプ氏は、その経験をGATTの物品貿易自由化の論理と組合せる新たな論理枠組を編み出そうとしているのがいたく分かる。その先覚的な認識と試みに引き寄せられる自分に閃きが走った。サービス貿易完全無関心の日本、故に我あり!

 以後、会ったこともないシェルプ氏に憧れ、日本のシェルプを目指して自由化タブーの実際界で密かにサービス貿易自由化を調査・研究し、全く先学のないなかで苦闘を積み重ねた。日本・アジアにおける数少ないサービス貿易自由化の専門家の一人として私がSWF(ジュネーブのサービス貿易国際学会)の理事に迎えられ、また、2年前に由緒ある本学に日本唯一の国際通商論が開設されて、私が専任教授に迎え入れられたのも、この一冊による大いなる啓発があってのことでもあろう。

(教授 国際通商論)


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