『書燈』 No.23(1999.10.1)

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図書館の将来への展望
館長 長尾 光之

 福島大学図書館は図書館関係の教職員によって運営され、主として教職員・学生が利用しています。しかし、福島大学図書館だけで独立して存在しているのではなく、他大学図書館、公立図書館などとも連携をとって、種々の情報交換や相互サービスをおこなっています。そのような話し合いをする会合には、福島県内の大学図書館等が集まる「福島県内大学図書館連絡協議会」、東北地方の国公私立大学の図書館が集まる「東北地区大学図書館協議会」、同じく東北地区の国立大学の図書館が集まる「国立大学図書館東北協議会」、全国の国立大学図書館が集まる「国立大学図書館協議会」などがあり、それぞれ年1回会議を開いています。

 これらの会議のなかでは、現在の図書館が当面しているさまざまな課題について意見が交換されるとともに、1つ2つの図書館では解決できないことを、多くの図書館が共同して各方面に呼びかけ、実現をはかるような意見の調整もおこなわれます。
 福島大学図書館がかかえている課題は、福島大学独自のものもあり、また、他大学と共通しているものもあります。それぞれの課題ごとにその位置づけをみて行きましょう。

冊子体の書籍・資料

 図書館をめぐる環境が大きく変化し、CD-ROMやビデオなどの媒体が増えてきているとは言っても、やはり図書館のなかでいちばん重要な位置を占めているのは冊子体の本や資料—いわゆる「紙の本」です。全国どこの図書館でも書籍の増加には頭を悩ませており、書架の増設や書庫の増築の要望をもっています。福島大学図書館では平成6年度に書庫が増築されましたので、他大学にくらべるとややめぐまれていると言えるでしょう。冊子体の図書が図書館のなかで大きなスペースを占めていることは全国の各大学図書館で共通の悩みになっています。各図書館で重複している図書も多く、すべての図書館があらゆる書籍を所蔵していなくとも良いのではないかとの考え方から、国立大学共同利用の保存図書館をつくるべきだ、との声が以前からあり、これを支持する意見も年々高まっています。

 そのほか、書籍については紙の劣化の問題があります。現在、各大学図書館で所蔵している書籍はその紙の劣化により、数十年後、あるいは百数十年後には寿命が来ると予想されています。図書を配置する場所の温度や湿度を適切な状態に置くとともに、今後作成される図書には千年の寿命を持つと言われる「中性紙」のような酸性度の低い紙を用いるなど、出版社を含む書籍関係者全体で対策を講じていかなければならないでしょう。

雑  誌

 図書館で購入したり、寄贈されたりする雑誌も年を追って増加しています。そのうち、どの雑誌を製本保存するか処分するかということについては大学ごとに方針が異なっています。大学によっては保存や処分の基準をつくっているところもあります。福島大学図書館では購入した研究誌・学生用雑誌は各学部の研究室の判断によって、製本して保存するか、製本せずに短期保存するか、廃棄するかを決めています。寄贈された紀要類は、論文集は製本保存し、月報・ニューズレターなどは製本せずに短期保存しています。寄贈された一般紙はその内容によって、製本保存するか、製本せずに保存するか、廃棄するかを判断します。

 研究・教育予算の全般的な実質的縮小により雑誌の購入にも困難が現れています。とくに外国雑誌の高騰は各大学図書館共通の悩みとなっています。
利用者サービス

 大学図書館は学内的には開館時間の延長などのサービス向上が求められています。本学図書館でも、長期休暇中の夜間開館などが課題になっています。大学職員の人数が削減されつつあるという最近の状況のもとでは、サービスを向上するためにあらたに人を配置するのはなかなか難しいことですが、夜間や休日は無人化しつつ24時間開館を実現した山口大学の例などは参考になるでしょう。

 いま、全国の大学で大きな流れとして進行しているのは学外者の大学図書館利用です。本学でも、相互協力関係にある図書館とは、現物貸借・文献複写のサービスをおこなっており、紹介状の持参等により、学外者の利用も可能となっています。しかし、現在、いくつかの大学でおこなわれている学外者へのサービスはもう一歩踏みこんだもので、現物の図書帯出をも含めています。県内ではいわき明星大学がこの8月からこのサービスをはじめ、マスコミでも報道されました。国立大学で実施しているのは、長崎大・山口大・愛知教育大などです。学外の一般市民を対象にした現物貸出をも含めた大学図書館利用です。これらの大学の報告を聞いていると、学外者への貸出を実施するうえでいちばん懸念されたのは、どこでも「図書が返ってこなくなるのではないか」ということだったそうですが、これまで「返ってこない」というトラブルは一件も発生していないそうです。

 そのほかの課題としては身障者へのサービス体制があります。新築や改造をする際に、バリア・フリーの通路や施設をつくることはもちろん、視覚・聴覚障害者のためのパソコン導入も求められています。

電子化への対応

 コンピュータは社会の各方面に普及していますが、図書館は電子化、情報化の影響をもっとも大きく受けている部署のひとつでしょう。とくに蔵書目録の電子化は図書館各部門の全面的な自動化にとって不可欠の前提条件です。本学でも、目録の電子化を精力的におし進め、相当な成果をあげつつありますが現在のところ全図書・全資料の電子化はまだ完成されておりません。また、学内の図書館以外のセンター所有の図書等の目録を電子化し、図書館と連携できるようにすることも課題です。

 全国の大学でも目録の電子化は進み、最近はわざわざ他大学等の図書館を訪ねなくとも、インターネットで書籍の所在を確かめ、相互貸借方式で借りだすことも可能になりました。しかし、入力が完成していない書籍や、特殊な資料等はまだ、その段階にいたってはおりません。

 近年、理科系を中心に学術雑誌を電子化した「電子ジャーナル」が多く発行されるようになりました。冊子体ではなく、コンピュータの画面で論文等を閲覧し、必要に応じてプリントアウトするものです。印刷、製本の時間が節約でき、海外の資料でも一瞬のうちに見ることができるという点で優れた面をもっていますが、問題はたいへん高価であるということです。このため、北海道、関東、九州などではいくつかの大学が連携して電子ジャーナルの共同購入を行っています。学術論文の電子ジャーナル化は今後は文化系の分野にも及んでくることでしょう。

 電子化、情報化がすすむにつれて大学人はコンピュータに関する基本的知識を持つ必要性がせまられています。本学で全学的レベルで展開されているハード面の整備や、学生へのコンピュータ・リテラシー教育は図書館利用とも深い関係があります。
 図書館職員をはじめとする教職員にたいするコンピュータ使用能力の研修は、今後量的にも質的にも高めて行く必要があります。また、電子ブック、CD-ROM、ビデオ・テープなどは書籍にくらべて高価なので、適切な予算的うらずけを求めねばなりません。図書館内部のビデオ編集機器、コンピュータ機器などのハード面の整備も不可欠です。

 福島大学は今年開学50周年をむかえました。旧師範学校、旧経済専門学校の蔵書を基盤としつつ、新制大学になってからも精力的に収書をつづけ、現在その蔵書は70万冊を越えています。平成9年には、経済史学書を中心とする大塚文庫、運輸・交通関係書籍を中心とする今野源八郎蔵書の2大コレクションを加えて、その質は一段と高まりました。

 10月末から11月初めにはこの2コレクションに西洋近代思想史関係資料、和算資料、江戸時代の版画など本学図書館が所蔵する貴重な書籍を一般公開する予定です。

 福島大学が蓄積したこれらの貴重な蔵書を基礎にさらにいっそう人類の知的遺産の収集を続けるとともに、新しい時代にみあった電子資料や電子システムを構築し、それらを的確に使用しうる人材の養成や体制の整備をおこなって行きたいものです。

gakujo@lib.fukushima-u.ac.jp

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