『書燈』 No.26(2001.4.1)

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アメリカ大学図書館事情
ミドルテネシー州立大学 大学図書館を訪ねて
情報管理係 白田真紀子

 図書館に踏み入れたとき、4階まで貫かれた吹き抜けの明るさと、回廊に掲げられたセクションの標識に目を奪われました。左手には貸出・返却カウンターが並び、右手にはレファレンスコーナー、中央4台のエレベーターの奥には雑誌コーナーが広がっていました。

 平成13年2月4日から11日まで学術振興基金による海外研修事業によりアメリカのミドルテネシー州立大学(MTSU)を訪問しました。1999年にたてられたばかりの大学図書館は800,000冊の図書を開架式書架に並べることができ、1,500の閲覧席、43のグループ学習室、1,000席の個人貸出机、60の研究者用個室、350台のコンピューター、60のマイクロフィルムステーション、合計100席の2つの図書館指導用教室が備わっていました。入り口の近くにレファレンスなどのカウンターやコンピューター、コピー室、奥に研究者用個室や個人貸出机を配し、入り口から奥に行くにしたがって静かな落ち着いた環境で勉強できるようにしたという館長の説明がありました。何がどこにあるのか、どこに行けば自分の求めるものが見つけられるのか一目瞭然の標識と、雑誌の近くにコピー室を配し、書架の随所に検索用のコンピューターを備え付けるなど、利用する側の行動を予測し無駄のない配置に収められていることに感動を覚えました。設計の段階から図書館職員の意見が積極的に取り入れられたということでしたが、書架に間接照明を配備するという些細な点にも細やかな気遣いが感じられました。

 全面開架式の書架は、随時学生スタッフが書架整理をしており、余裕のある書架スペースとあいまって図書が探しやすくなっていました。また、レファレンスカウンターには月〜木の朝8時から夜10時まで、金・土曜日は8時から夕方5時まで、日曜日は午後1時から夜10時まで必ず図書館職員がカウンターにいるようにローテーションが組まれていました。さらに、MTSUは遠隔地授業も行っています。そのような学生に対しても、遠隔地にいながら図書の貸出やレファレンスなどのサービスが受けられるよう図書館として配慮しています。もちろん身体障害者に対しても同様で、テキストをスキャナーで読み込んで音声に変換する機器などが入り口近くの部屋に確保されていました。私が滞在している間にも、さまざまな障害をもつ学生がキャンパスを行く姿をたくさん見かけました。

 渡米前にMTSU大学図書館のホームページを調べ、電子図書館としての機能も含めインターネットを使ったサービスが充実していることは知っていましたが、従来の図書館サービスもおろそかにしない姿勢に感嘆しました。

 また、いかにもアメリカらしいと感じたのは、プロの図書館職員の仕事と人手があれば足りる単純作業が明確に分化されており、単純作業には学生スタッフが充てられていることでした。単純作業とされていたものは貸出・返却作業と書架整理でした。

 私の仕事にかかわる点では、目録業務も流れ作業で行われており、目録作成と分類を決めることは図書館職員がしていましたが、装備は学生スタッフがしていました。確認専門の人もいたので、1冊の目録が済むまで4人の手が加わっていました。

 基本的な図書館業務は同じですが、MTSU大学図書館のほうが、よりシステマチックに行なわれている点など、違いも感じられました。そうかといえば雑誌価格の高騰など共感する悩みもあり、1誌新規の雑誌を購入するためには、1誌今まで購入していた雑誌を止めなければならないといった話もされていました。

 滞在中はあまりの図書館の素晴らしさに圧倒されていたのですが、MTSUに所属する1900人の学生と700人の研究者という数からすると、図書館の規模が小さいのではないだろうか、ということに帰国してから気づきました。それ以外にも、時間的制約と英語能力の限界のために、準備していた質問の半分も聞くことができなかったことなど大いに反省すべき点がありますが、実際にアメリカの大学図書館を訪ね、担当業務の人に話を聞くことができたことは、私自身、図書館サービスの原点に帰って学ぶ良い機会となりました。MTSU大学図書館並みの施設と人員、予算があれば理想ですが、そうでなくても利用者の視点に立ったきめ細かいサービスはぜひとも見習いたいと思います。

 

gakujo@lib.fukushima-u.ac.jp

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