『書燈』 No.26(2001.4.1)

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思い出の一冊
経済学部 柴原哲太郎

 バートランド・ラッセル(Bertrand Russell)は、アインシュタインとの世界平和運動でも良く知られていますが、私の思い出の一冊は、このラッセル卿の「西洋哲学史」(History of Western Philosophy)です。未だ完全に読み通していないし、人生の折々に御世話になっている本ですから、正確に言えば“思い出の”本ではありませんが、青春の日々に思索する楽しみを教えてもらった本という意味で「思い出の一冊」です。

 大学一年の頃に、クラブの合宿の折りなどに先輩たちが難解な哲学用語を交えて議論しているのに触発され、わからないままに文学書や哲学書を種々手にとっているうちに出会ったのがこの本でした。その序章が素晴らしく、科学と宗教の狭間にある哲学の意味と意義とを明快に説明してあって、“本当にそうだ”と読んでいるうちにこの本の虜になりました。

 最初に買ったのは市井三郎さんの日本語訳で3冊本であったと思いますが、当時の本は大学卒業時に友人にあげたようです。今手元にあるものはGeorge Allen & Unwin Ltd社から改訂第2版として1961年に出版された英語のペーパーバック1冊本です。私の書き込みからみて、博士論文を書いている時にトマス・アクィナスの章を参考にするためにトロントで求めたものだとわかります。

 日本語の哲学用語は難しいので哲学の本は原文で読んだ方がかえって分かり易いといわれますが、特に論理哲学者であるラッセル卿の文章は論理的であり平明でとても読みやすいように思います。この西洋哲学史もユーモアのある文章などは英語を読む楽しさも感じさせてくれます。

 この頃は厳しい世相を反映して、実用的な資格を取らせるなど、生きて行く術(すべ)を身に付けさせる教育が大学でも必要だとの議論もあり、卒業後の糊口の手段はとても大事だと思いますが、学生時代をもう一度送れといわれれば、やはり私はラッセル卿の本などを読み、「宇宙のなかの孤独な自己存在の意味」などを考えて過ごしたい気がします。

 

gakujo@lib.fukushima-u.ac.jp

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