福島大学附属図書館報 『書燈』 No.30(2003.4.1)

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フランス国立教育研究所図書館
−Institut National de Recherche P
édagogique
荻路 貫司

  私は、1996年6月から10カ月間、文部省長期在外研究員としてフランスを中心にヨーロッパへ出張しました。その間、ヨーロッパ5カ国の図書館を訪れましたが、ここでは、そのとき主たる研究受け入れ機関としてお世話になったフランス文部省所管のINRP(国立教育研究所)の図書館についてお話ししたいと思います。

 INRPは、フランスにおける義務教育制度黎明期の1879年にパリに設立されたフランス文部省の「教育博物館」の後身であり、第二次世界大戦後、IPN(国立教育研究所)、さらにINRDP(国立教育研究並びにドキュメント研究所)を経て、1976年に現在のINRP(国立教育研究所)になりました。教育の全階梯に関する研究をその使命とする研究機関であると同時に、フランスにおける教育に関する全国的な資料センターとしての役割も担っています。

 INRPの組織、活動に関していえば、教育全般、とりわけ教育史、教育社会学、教育心理学、教科教育学、教育技術、学校環境、教員の健康と養成などを対象とし、それらの研究を進めるための研究部門を擁しています。そして、上に掲げたそれぞれの領域における課題研究と共に、領域をまたがった横断的な研究も行っています。また、それらの研究は、研究所内のメンバーだけでなく、広く大学並びにCNRS(国立科学研究センター)所属の研究チームと共

同で実施され、さらに、1,200名以上の現場の学校教員も

カウンター 図書館カウンターは利用者への応対で毎日忙しい。

参加しています。その他、INRPは、国内的また国際的に研究者の集う場所として、 研究のコロキュウム並びにセミナーを開催しています。また、研究成果の普及のために、教育領域に関する多くの研究書籍ならびに定期刊行物の刊行も行っています。

玄 関
研究所の玄関にはルアンへの統合移転に
反対するメッセージが掲げられている。
  こうした幅広い活動を行うINRPの図書館は、後に「公教育に関する中央図書館」と名付けられることになる「初等教育中央図書館」として1879年の「教育博物館」の誕生と同時にパリに設けられました。それ以後、教育に関する専門図書館として、研究の発展と教員の資質向上のために活動しつづけてきています。また、文部省の図書館として、中央教育行政にも重要な役割を演じてきました。

 同図書館は、「教育博物館」から図書館部門を独立させた1932年のCNDP(国立教育ドキュメント・センター)の発足と同時に、現在の場所である、パリ左岸カルチェ・ラタンのウルム街に移りました。有名なパンテオンの近くに位置し、多くの科学者、文化人、政治家を輩出したフランス随一の有名グラン・ゼコールであるエコール・ポリテクニック(理工科学院)と同じ通りに面しています。ソルボンヌ(旧パリ大学)も遠くない所にあり、まさにその活動にふさわしくフランスの学術の中心に位置しているといえましょう。

 INRPの図書館となった後、「歴史コレクション」部門が北部の古都ルアンに移り附属の国立教育博物館として独立しましたが、パリ・ウルム街の本館には教育研究の全領域をカバーする550,000冊の書籍と約5,000種類の定期刊行物が所蔵され、教育関係者を中心に広く利用されています。フランス並びに世界の教育行政と統計ドキュメントの所蔵において特に優れています。また、16世紀から今日までの教科書、教育論文、教育構想・法案、教育関係行政資料・統計等の文庫、コレクションは見逃すことのできない貴重なものといえます。              (教育学部教授)

                                      

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